プロジェクトの詳細
説明
Outline of Research at the Start
林冠、すなわち木の上の生態系は、野生生物の生息地や物質循環の基盤として重要な役割を有している。しかし未知の情報が多く、保全や管理に関する知見が乏しい。そこで本研究では、①林冠にはどのような動植物が存在するのか、②それらの生物は必要な物質やエネルギーをどのように得ているのか、③森林伐採などの人為的攪乱によって①と②はどう変化するのか、の3点を明らかにする。具体的には、屋久島のヤクスギ林を対象として、樹上でのフィールド調査、同位体分析、遺伝子解析などから林冠の生物相の特徴とエサ資源の取得経路を明らかにし、地表の生物群集との違いを検証する。さらに、森林伐採が林冠生態系に与える影響を推定する。
Outline of Annual Research Achievements
本研究の目的は、屋久島のヤクスギ林を対象として、林冠生態系の生物多様性の特徴とそれが維持されるのに必要な物質の動態を調査し、これらが森林伐採などの人為的攪乱によってどのように変化するのかを明らかにすることである。林冠は、生物多様性の高い空間として知られているが、人がアプローチしづらいため、科学的なデータが不足している。申請者らは、木登り技術を利用し、ヤクスギの巨木の林冠生態系について詳細な調査を行いたいと考えている。2020-2021年度は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、現地調査やサンプル採集などを予定どおり実施することが困難であった。しかし、感染者数が比較的低く抑えられていた時期に、調査地を訪れることができ、ヤクスギの樹上の生物群集について調査を実施することができた。具体的には、調査対象とするヤクスギ個体に登攀し、林冠に堆積した落葉や土壌を採集した。採集は、1個体につき、高さの異なる2地点からとし、林冠に着生する植物などへの影響がなるべく出ない場所を選ぶこととした。採集したサンプルを対象として、ツルグレン法により、土壌動物の抽出を行った。抽出した土壌動物群集はエタノールに固定し、DNAを抽出した後、ミトコンドリアDNAのシトクロームオキシダーゼサブユニットI(COI)領域を対象としてDNAメタバーコーディング解析を実施した。その結果、無脊椎動物に由来する塩基配列(OTU;Operational taxonomic unit)を多数、検出することができた。これは、林冠に堆積した落ち葉や土壌をすみかとして、多様な生物が生息していることを示唆している。また、調査対象木の樹齢が比較的若い個体であっても、採集箇所によっては多様な土壌動物が生息していることが明らかとなった。
ステータス | 終了 |
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有効開始/終了日 | 2020/04/01 → 2023/03/31 |