2019年夏季, 全国のアコヤ真珠養殖場で, 母貝の外套膜が委縮する“原因不明の大量死”が発生した。これまでの予備的試験から, 全ての病貝から滑走細菌Tenacibaculum様細菌が単離されたことから, 大量死の原因は本菌による感染症ではないかと考えられた。その一方で, 申請者らは, “アコヤガイ殻黒変病”の原因がTenacibaculum sp. Pbs-1株の感染症であることを明らかにしている。そこで本研究では, 分離菌株を用いた感染実験を行い, 2019年のアコヤガイ大量死の原因を究明するとともに, Pbs-1株の特異検出法も開発する。
1. 軟体部萎縮症個体からVibrio sp. MA3株を単離し, 人為的に感染させて軟体部萎縮症を再現した。2. MA3株から溶血タンパク質Vhe1を精製し, 特性解析した。3. MA3株の感染で心筋のびまん的な変性・壊死が起こり, 心臓の機能不全と, それに伴う出入鰓血管を介した循環障害が起こっていた。4. 殻黒変病の原因細菌Tenacibaculum sp. Pbs-1株のLAMP法を開発した。
日本の養殖アコヤ真珠は, 世界的に非常に評価が高く, 日本の水産物年間輸出額の11% (約330億円) を超える重要な輸出産業となっている。しかし近年, 母貝の殻内側が著しく黒変し, 低品質の真珠形成や死亡を引き起こす‘殻黒変病’と, 外套膜が極端に委縮し死亡する‘軟体部萎縮症’が全国の真珠養殖場で大きな問題となっている。これらの疾病の全容解明は, 緊急性を要し, 日本が誇る真珠養殖産業の持続・発展に不可欠の課題である。本研究成果は, その解決に向けた第一歩であり, 学術的・社会的意義は高いと考えられる。
ステータス | 終了 |
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有効開始/終了日 | 2020/04/01 → 2023/03/31 |
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