地方自治体の地球温暖化政策を通じた分散型エネルギー・ガバナンスの可能性と限界

  • 青木, 一益 (研究代表者)

プロジェクトの詳細

研究概要

本研究は、地方公共団体(以下、自治体)が推進する地球温暖化対策の推進・阻害要因に分析を加え、わが国における分権型エネルギー・ガバナンスの可能性と限界を明らかにするものである。1990年代中頃以降、地球温暖化問題への対応を契機に、わが国地方レベルにおいて、従来にない政策動向が顕在化しつつある。それは、かつて中央政府の専管事項と考えられてきた、エネルギー問題への自発的な対応を志向する、自治体による一連の取り組みである。具体的には、風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーの導入、エネルギー使用量の削減義務化、森林再生のための自主課税といった対策により、二酸化炭素(CO_2)排出量の削減や域内エネルギー需給の最適化が目指されている。すなわち、そこでは、基幹的社会インフラであるエネルギー・システムにかかわる問題に対して、地方政府たる自治体が独自のコミットメントを見せはじめているのである。そこで、本研究では、東京都、岩手県、長野県、葛巻町、常滑市、つくば市などを題材としたケース・スタディを実施し、事例横断的に得られる定性的知見に基づく分析を行った。上記各自治体においては、グリーン・ニュー・ディール的な政策観が志向・先取され、2000年前後といった早期より、各種先駆策の導入・実施が試みられてきた。がしかし、東京都のケースを除き、各自治体では、企図された通りの政策パフォーマンスが実現していない状態にある。その要因として、本研究では、以下の各点を明らかにした。首長や地元有力者などから成るネットワークを媒介とした権力的なコミットメントが、先駆策をアジェンダ化する際の促進要因として重要な作用を発揮する。しかし、その一方で、実効性のある先駆策を制度化する過程では、国の補助金といった域「外」要因の規定力が強いことや、理念条例の制定や他の自治体の施策の模倣といった手法が多用されることなどが、先駆策推進に欠かせない域「内」アクターのコミットメントをかえって減退させる。また、実施に至った個別技術導入事業はフィージビリティが確保されず、計画化・条例化にまで至った施策も、域内ステイクホルダー(住民、地域資本など)の認識・行動喚起のための十分なインセンティブを付与することができない。加えて、本研究では、キャップ・アンド・トレードの導入において当初の企図通りの制度化を果たした東京都のケースにおいて、そこでの施策展開が他の自治体に波及する可能性が低いことを明らかにした。以上、本研究で得られた分析成果は、当該政策課題に関するガバナンスの主体たる自治体の能力に、一定の疑義が呈されることを示唆するものとなった。
ステータス終了
有効開始/終了日2009/01/012011/12/31

資金調達

  • Japan Society for the Promotion of Science: ¥2,080,000

キーワード

  • 地球温暖化対策
  • 自治体政策過程
  • 分権型ガバナンス
  • 合意形成
  • 政策過程分析
  • 地方自治体
  • 低炭素社会
  • 制度設計
  • アジェンダ化
  • 制度化