具体的な成果としては、本研究によって確立された木材内部で生活する昆虫の行動を観察する実験系を用いて、シロアリ類および食材性ゴキブリ類における、家族内での個体間のインタラクションの実態を明らかにした。木材内部で生活する食材性昆虫類の行動に関しては、その観察の難しさから研究例は少なく、特に食材性ゴキブリ類における報告はほぼ皆無であった。これらの実験により、シロアリ類及び食材性ゴキブリ類において、社会性と栄養交換行動の間には強い関係性がある事が示唆された。また、複数の内因性セルラーゼ遺伝子の発現解析から、シロアリ類及びゴキブリ類の複数種間における成虫及び若齢若虫の木材摂食能力の違いを明らかにした。上記2つの結果は、これらの分類群において、栄養交換行動による親から子への給餌がその社会性の進化に寄与したという説を支持する実験的証拠として重要な意味を持つ。さらに、個体の木材摂食能力の評価の一環として、ヤマトシロアリの各カーストにおける腸内共生原生生物量の違いを調べたところ、繁殖形質の発達と共生原生物量との間には負の相関関係があることが明らかになった。これは、シロアリ類と腸内微生物の共生関係に関する全く新たな知見であり、シロアリの真社会性の進化要因を考える上でも極めて興味深いものである。