私達が意図して行う運動(随意運動)によって体の重心の位置が変わりますが,そこに適切な姿勢調節が働けばバランスを崩して転倒してしまうことはありません.ところが,脳疾患を原因とする姿勢調節の障害は高齢者の転倒の危険を増しています.姿勢調節障害の病態を根本から理解し,適切なリハビリテーション法の開発につなげるため,まずは正常な脳がどのように随意運動,姿勢をコントロールしているのか調べます.具体的には,動物を訓練して標的に向かって前脚を伸ばさせ,前脚の運動そのものに関与する脳活動と,姿勢調節に関与する脳活動を可能な限り切り分け,これら二種類の活動が別々の経路で出力されているという仮説を検証します.
ヒトや四足動物でみられる予期的姿勢調節(APA)は明らかな四肢の運動が始まる前に起こる姿勢変化である.経験上,我々ヒトが次の行動を見越してどのようなAPAを行うかは,学習を通して獲得された予測戦略に左右される.これは動物でも同様であろうという仮説が立てられる.この仮説をネコで検証するため,2頭のネコを訓練し,規則的(3試行ごと)に標的の位置が左から右,あるいは右から左に交代する遅延到達運動課題を行わせながらネコの重心位置の水平成分(CVP)を測定した.毎試行で標的が現れる前のCVPを解析した結果,ネコは標的位置の変化の規則性を学習し,次の標的位置を予測した上で姿勢調節を行っていると考えられた.
歩行中の転倒予防は高齢者の生活の質を保つための最重要事項の一つである.転倒予防のためには一歩一歩を踏み出す前に適切なAPAを行うことが必要であり,これには脳幹網様体や一次運動野が関与することが示されている.更に,高齢者が日常生活を営む空間内を移動しようとするとき,空間内の障害物や危険個所の位置を記憶し,その記憶に基づいたAPAが行なわれれば,転倒リスクの更なる軽減やスムーズな移動につながると思われる。しかしながらその責任脳領域についての詳しい研究は少ない.本研究の成果は,このような記憶に基づいたAPAを生成する責任脳領域の機能を研究するための動物モデルとしてネコが使用可能であることを示した.
ステータス | 終了 |
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有効開始/終了日 | 2019/04/01 → 2024/03/31 |
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