高齢化により便秘症が増加している。腸管の感受性低下が病態に関わるが、その詳細は不明で根治療法がない。感受性低下の分子機構を検証し、根治療法の開発に重要な情報を提供することが目的である。便秘症の腸管で引っ張り刺激を感じる受容体(TRPV4イオンチャネル)が発現抑制を受けていることを検証する。我々は、消化管上皮にTRPV4が存在し、活性化により放出されたアデノシン三リン酸が内臓神経を刺激すること、ピロリ菌感染者の胃上皮ではTRPV4の発現抑制が生じることを報告した。結腸上皮と腸内細菌や炎症性サイトカインを共培養するとTRPV4の発現に変化が生じており、根治療法につながる知見を提供する。
便秘患者では小腸から直腸にかけて伸展や微小炎症を受容するTRPV4イオンチャネルが上皮に多く発現し、便回数減少や罹患期間に関連していた。結腸上皮細胞株と細菌を培養すると、TRPV4の発現が一過性に減少するもの、不変なもの、増加するものに分けられた。発現を増加する細菌として、クレブシエラ菌、腸球菌、大腸菌が見出させ、菌体ではなく、培養成分が増加させた。短鎖脂肪酸である酪酸や、TNF-α阻害剤で発現増加が抑制された、便秘症状と便秘患者の大腸粘膜の腸球菌比率とが関連しており、酪酸産生菌を維持し、TNFα経路の抑制が慢性便秘症の予防や治療につながりうることが示唆された。
慢性便秘症は有病率5%の高頻度疾患であり、今後も増加することが危惧されている。その慢性便秘症において、腸内細菌のTRPV4発現増加への影響及び、酪酸とTNFα阻害による発現増加抑制効果が明らかとなったことにより、慢性便秘症の病態解明及び、酪酸産生菌投与や、TNFα阻害剤の新規治療法の開発につながり、患者のQOL向上、医療費低減につながる可能性がある。また、TRPV4は結腸以外の消化管だけでなく、膀胱、皮膚、気管などの細菌が暴露する上皮でTRPV4が生理的機能、病態に関与していることが知られており、他領域疾患の研究への波及効果が期待される。
ステータス | 終了 |
---|
有効開始/終了日 | 2019/04/01 → 2022/03/31 |
---|