まず初めに,合成標的化合物として,アザ糖類の一種であるfagomineと1-deoxynojirimycinを取り上げ,これらの天然物の基本骨格を2価のパラジウム触媒による環化反応を用いて合成した。すなわち,環化反応の基質であるアリルアルコールを有するウレタン体をそれぞれ設計・合成し,2価のパラジウム触媒で処理したところ,欲する立体化学を有する環化体を高収率で得る事ができた。さらに,これらの環化生成物から目的の天然物への変換にも成功した。また,同様の反応を,巧みに設計した基質に適用する事により,不安定なヘミアセタールを経由するにもかかわらず,高立体選択的にスピロケタール環を得ることに成功した。そこで,標的天然物として,種々の抗菌活性を示し,スピロ環構造を母核とするspirofungin A及びbistramideを取り上げ,それらの全合成を検討した。まず,設計・合成したアリルアルコールと2級アルコールを有するケトン体を2価のパラジウム触媒で処理することにより,spirofungin A及びbistramideの基本骨格であるスピロ体の高立体選択的な合成に成功した。現在,環化生成物から天然物の前駆体の合成まで進んでいる。これらの成果を47〜49回の天然有機化合物討論会で発表している。2価のパラジウム触媒を用いる環化反応は,水酸基がfreeでも,シリル基やTHP等で保護されていても反応が進行すること及び厳密な反応条件が不要であること等の利点がある。