Abstract
本論は、総合的な学習の時間枠の導入を契機として顕在化してきた二項対立的な学力論争に対して,多様な観点から問いを立てて接近し,そのことによってこれからの社会のなかでもとめられる<学力>の柔軟な概念枠組みと内容の提示を試みた共同研究である。ここで展開された内容は広範囲にわたっているが,通底する問題意識は,子どもが自らの個性を進展させつつ,他なるものとかかわりながら社会のなかで生きていくことができるような学力とは何か、それらを含めた<学力>の内容や構造の「学力」研究の課題を4つに集約して現在までの成果とともに論じた。次に,新しい地平の獲得をめざしつつ,小学校英会話学習の観点から,総合的な学習の時間に位置付づけられたその学習に教科性と総合性に依拠した二つの学力観があることを解明し,体力や運動論との関係から体育におけるコーディネーション能力の可能性を提示した。そして最後に,学力を人間形成や発達の観点から考察するために<生成>に着目し,測定可能な範囲でのみ学力を捉える伝統的な学力観を超える学びの可能性を提示した。これらの論考から顕在化するのは,「公共社会の文脈での知」を保障するために真正の学力を計画可能性のもとに捉えようとする立場と,計画不可能な超越的な学びこそが意味生成を可能にするという立場との対立的局面である。本論はそれを肯定的に捉え,このいわば二つの軸によって構成される包括的・対立的な学力像のなかに、状況に応じてそれらのいずれにも自由にシフト可能な多義的な学力の内実があると結論づけた。それゆえ,子どもと教師の関係性,教育の目標,内容,方法の相互関係性などで練り上げられた諸軸に位置づけて検討する課題が出現する。とはいえ,ここで論じられた<学力>は,多義的で重層的な関係性に子どもと教師双方の学びや成長・発達を捉えようとする地平を有しており,日本の学力論争の系譜であった拮抗する二つの学力観を超えるダイナミズムを有している。
Original language | Japanese |
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Pages (from-to) | 95-109 |
Number of pages | 15 |
Journal | 鳴門教育大学学校教育実践センター紀要 / 鳴門教育大学学校教育実践センター 編 |
Volume | 17 |
State | Published - 2002/12/18 |
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