Abstract
公健法に基づく公害健康被害補償制度による給付と民事損害賠償給付の調整について、メチル水銀中毒症の損害賠償請求に関して、正面から争われた事件である。公健法13条1項は、補償給付を受けることができる者に対し、同一の事由について、損害の填補がされた場合においては、都道府県知事は、その価額の限度で補償給付を支給する義務を免れると規定するのみであり、民事損害賠償給付との調整関係については明示していない。それゆえ、「一時金払い式」の民事損害賠償給付によって損害が填補された場合において、都道府県知事が同法に基づく補償給付の支給義務の全てを免れる(公健法肩代わり説)か、それとも民事損害賠償義務の利用による填補額の限度で同法に基づく補償給付の支給義務を免れるにとどまり、なお同法が定める「定期金払い方式」の給付に基づく支給義務があるか(公健法独自基準説)が問題となる。筆者は、これらの説について整理を行った。最高裁は、公健法肩代わり説を採用しており、原審の上記判断は是認することができないとする。同説を採る場合でも、前述の公平性に係る論点は残る。その点には、公害による健康被害という事案の特殊性と、同制度の構築における歴史的な経緯を理由とするしかないことを筆者は指摘し、今後の展望についての若干の考察を加えたものである。
Original language | Japanese |
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Pages (from-to) | 115-122 |
Journal | 環境法研究 |
Volume | 45 |
State | Published - 2020/11 |