無女王制アリにおけるコロニー内利害対立に関する進化生態学

  • 辻, 瑞樹 (Principal Investigator)

Project Details

Abstract

形態的女王が存在せず、コロニー当たり1個体の形態的定義によるワーカー(働きアリ)が交尾して産卵する沖縄産のトゲオオハリアリ(Diacamma sp.)において、進化生態学的研究を行った。本種の未交尾ワーカーは産卵以外の労働を担うヘルパーとして振る舞うが、産卵能力を持ちコロニーに女王(以後機能的意味で交尾雌をこうよぶ)がいない状態では雄になる未受精卵を産む。女王の存在下でワーカー産卵が抑制される行動的な究極要因は、(1)女王による産卵妨害、(2)ワーカーによる相互産卵妨害、(3)ワーカーの自主規制の3つがあると血縁淘汰モデルから予測されているが、本種のような単女王制1回交尾(コロニー当たり1度だけ交尾した女王が1個体)の種では、(2)や(3)は進化しにくいと予測されている。しかし、ワーカー産卵を人為的に誘発させる実験により、本種において(2)の存在を確認した。これは単女王アリ種では初めての報告である。(2)が存在している原因として、頻繁な女王交替による血縁構造の変化と、ワーカー産卵のコストが考えられる。後者については、コロニーの成長率で計測した短期的なコストは検出されなかったが、長期的なコストは存在する可能性があり、これは現在計測中である。また、血縁構造や順位とワーカー産卵の関係についてもDNAマーカーを用いて調査予定である。ワーカー産卵抑制の至近要因については、女王の存在シグナルが関与していると理論的には予測されている。しかし、アリにおけるシグナルの実態は全く解明されていない。本研究で、シグナルはミツバチの女王物質のように一部揮発性やワーカー間の口移しを介した間接伝達性はなく、女王とワーカーの直接の接触により伝達されることが解明された。また、女王はシグナルを効率的に伝えるための様々な戦術(優位ワーカーを狙った周期的な巣内パトロールや食卵)を採用していることが、詳しい行動観察により判明した。
StatusFinished
Effective start/end date1996/01/011996/12/31

Funding

  • Japan Society for the Promotion of Science: ¥1,000,000.00

Keywords

  • 進化生態学
  • 社会性昆虫
  • アリ
  • ワ-カ産卵
  • 順位行動
  • 繁殖抑制
  • フェロモン
  • Diacamma