元明時代における法律実用書の基礎的研究

  • 徳永, 洋介 (Principal Investigator)

Project Details

Abstract

遼金時代は東北アジアから興起した異民族政権が相継いで華北地域を支配したというだけでなく、起源と習俗を異にする多様な人々を抱える複合国家が形成されたことにおいても、続くモンゴルの元朝に繋がる部分が多い。とりわけ遼朝を建てた契丹人たちが金朝や元朝でも重要な役割を担い続けた事実に加え、公式の文書には契丹字や女真字が漢字とならび用いられるなど、言語や文化のうえでも、旧来の中国王朝にはない特色が見受けられる。事実、金代には女真語訳された中国の典籍が少なからず出版されたように、征服王朝の出版文化への影響が顕著に窺える反面で、元代になると漢児言語や蒙分直訳体などの特異な漢語文体で記された書籍がむしろ目だって増えてくる。元代を代表する法律書『元典章』や『大元通制』もそうした漢語文献にほかならず、泰和律の廃止に伴い、唐律の需要が高まると、いわゆる「刑統の学」がにわかに活気を帯びる。それは南宋の旧領にあたる江西地方で『故唐律疏義』が初めて刊行されたのと軌を一にするものながら、もとはといえば、遼金両朝が唐律を参酌しながら、さまざまな民族で構成される複合国家にふさわしい独自の刑法典を作りあげてきた背景をもつ。法の二元体制で知られる遼朝が遊牧諸族に適用すべき部族法をまとめるに際して触媒にしたのは唐律であり、その本格的な受容は唐末から宋初にかけて現れる「刑統」と銘打つ法律書を通じて行われたからである。しかも、契丹字で表記される語彙の多くが漢語の音写というかたちを採っているように、異民族政権もまた中国法を基本にしながら、独自の体系を築いてゆくほかなかった。その意味で遼の条制や金の制条や律義はいずれも「刑統」の系譜に連なるものであり、この時代に特有の漢語で書かれた多くの法律実用書もまたこうした文化受容のあり方を反映していたのである。
StatusFinished
Effective start/end date2001/01/012002/12/31

Funding

  • Japan Society for the Promotion of Science: ¥3,000,000.00

Keywords

  • 中国史
  • 法制史
  • 複合国家
  • 征服王朝
  • 唐律
  • 刑統学
  • 漢児言語
  • 元代
  • 法律
  • 書籍・出版