北海道の越冬条件を再現するため, コロニーを90日間の低温処理下(3℃)においた後, 20℃に戻して14日間回復させた. 続いて初年度に単離したHsp90, Hsc7-1, Hsc70-2遺伝子について, 低温処理期間における発現パターンを調べた. その結果, 有翅女王のコロニーでは他の生物で見られるような一般的な低温応答が確認されたのに対し, 中間型のコロニーではその応答が鈍いことが明らかになった. さらに, この差は成虫よりも幼虫の段階で比較したときの方が顕著であることも分かった. また, それらの転写因子であるHsf-1とHsf-2の発現パターンや, それらの結合するHsp90遺伝子の上流領域の配列にコロニー間の差がみられなかったことから, 上記の発現パターンの差は転写制御の違い以外の要因により維持されていると示唆された(例, エピジェネティック制御). 本結果は中間型のコロニーが寒冷環境に馴化していることを示唆するとともに, ストレス環境下での変異表現型の創出とそれに続く中間型進化がHspの応答性低下を介して起こった可能性が示唆された.